雑記


行き場のない言葉をどうして産んでしまうのだろうね。
それは、居場所を見つけられない子どもたちのように、怯えながら、尖ってるね。
行き場なく、居場所なく、逃げ場さえないのなら、生まれてしまうよりは、間引かれた方がいいこともある。
言葉も、心も、そして、恋も。
そんな言葉達を綴ってみました。



悪い女は苦手
騙されてしまいそうだから。
悲しい女は苦手
絆されてしまいそうだから。
冷たい女は苦手
傷つけられそうだから。
やさしい女は苦手
惚れてしまいそうだから。



暖かな日の光が
氷を溶かす
氷は溶け
水になり
やがて蒸発して
空に帰る
心のように
そして今日も永遠は月の周りを五周する



人にやさしくしよう
もっとやさしくしよう
もっともっとやさしくしよう
どうして、いつもあとから思うんだろう
みんなかなしみがあって
それをおれはどうにかできるのに
どうして、いつもあとから気づくんだろう




神様はきっと
天使をお側に置いておきたくなったのです




そして
純粋なる魂は
至高へと誘われる




yukari, be for ever!

I'd write some stories for souvernior of you, yukari
But now it is too hard to write it for me because you are full of life even now in my heart
I guess you are loved by the God surely
And so He called you to let you stay by himself
A eternal innocence is leaded to supremacy




Belief

信頼とは
けっして疑わないことです
信頼はあきらめから生まれる
そして深い悲しみから
絶望を知るものだけが
無邪気に人を信頼できる
俺は、そんなイノセントを心から希求する




嗚呼
憧れを知る者のみ
わが悩みを知らめ
(by ゲーテ)




すさぶ~♪心でいるじゃないが♪
流す涙も枯れ果てた~♪
こんな女に誰がした~♪




GRADUATION

まばらにしか客のいない
雨の日のライブハウス
一番前の席
まぶしそうな目で僕を見てたね
売れない僕の歌
じっと聞いてくれたね
いつか歌ってたよ
ラブソング君のために
精一杯の笑顔を返してくれたね
待ちくたびれた顔もせずに
GRADUATION
そんな君の卒業

笑顔だけを僕にくれたね
思い出のライブハウス
いつだって君は
さよならを言ったとき始めて
涙見せた、あの日
きっと忘れないよ
ラブソング君のために
今日も歌い続けてる満員のアリーナ
GRADUATION
そんな僕の卒業




嗚呼 ハイマート
ふるさとよ
汝は悲しみの泉か
遠く慕うのみの
悲しく歌うのみの




約束(『ある店の壁の落書き』より)

約束しようよ
約束だよ
やぶってもいい約束

いつか時が過ぎて
二人とも年をとって
君がしわくちゃのおばあちゃんになって
僕がつるっぱげのじじいになって
もし二人ともひとりぼっちだったら
そのときは一緒に暮らそうよ
毎日毎日話をしようよ
会えなかった長い時間のお互いのこと
ずっとずっと語り合おうよ
どこに行くときも一緒だよ
温泉に行ったり旅行に行ったりしよう
そしていつか二人とも死んじゃうよね
そのときは、とても温かなお日さまの下で
僕は君を見ながら先に逝くから
君が先に死んじゃ駄目だよ

約束しようよ
約束だよ
やぶってもいい約束




ヒトヨヒトヨニヒトミゴロ 




    断章(『ある店の壁の落書き』より)

  僕は、ときどき、さみしいふりをする
  君の前で
  僕は、ときどき、さみしくないふりをする
  君の前で
  僕は、ときどき、元気なふりをする
  僕は、ときどき、元気のないふりをする
  僕は、ときどき、やさしいふりをする
  僕は、ときどき、やさしくないふりをする
  でも、君にはわかるだろう
  君にはわかってほしいんだ
  僕は、君がとても大好きで、それで、いろんなふりをするんだ、ってこと
  だって、てれくさいじゃないか
  君は、まっすぐな目で僕を見つめる




broken destiny

   何故、俺が一目見たときから君にひかれるのかわからなくって
   運命のせいにしてみた

   ずっと、ずっと昔に会って、恋をしたのかもしれない
   そのときは、二人とも素直に愛し合えたのかもしれない
   それから、無限の時間が過ぎて、また、巡り会えたんだから
   また、無限の時間の先で、巡り会うかもしれないね
   そのときは、俺は、もっと、自分に素直になるよ
   もう強がったりしない
   遠慮もね
   あるいは君に降る雨になっても
   あるいは君を包む風になっても




こんな諦め方があってもいいでしょう、たまには。
こんな馬鹿がいてもいいでしょう、たまには。




      永遠・序

   どうしてなくす前に気づかないのだろう
   あまりに見つめすぎていつの間にか見失う
   あまりに近づき過ぎていつの間にかすれ違う

   きっとそんなふうな集散と離合を繰り返しながら
   愛は運命へと運命は永遠へと昇華する




自己の同一性が失われていく
ゲシュタルトの朝が近い
その朝
俺は飛翔する
より高みを目指し
冷めた肉体を下に見ながら
俺は上昇する
空が青い
俺は上昇する
情熱的な魂で天を焦がすために



   もっとも効果的な侮辱は、無視することである。  by ビクトル・ユゴー




恋の忘れ方についての一般的考察(Vol1 No1)

そもそも、不可能なのだろう。
忘れてしまうなんていうことは。
脳は、記憶と記憶の再生のみを働きとして持つ器官である。
記憶の消去という重要なタスクは、予め負わされていない。

これは、記憶の消去が、脳が一つの重要な役割として負っている自己同一性の保障に対して重大な影響を与えてしまうためだと考えられる。

だが、忘れないと自己同一性が保てないときもある。

その場合、脳は、一時的あるいは半恒久的にその記憶の再生プロセスにファイアウォールを設けて、容易な記憶の再生を不可能にする。

このファイアウォールの構築は、脳が、本人の自己防衛機能の一つとしてもっている自律的な働きなのだろうが、我々は、この脳自身の自律的な働きを脳の中にありながら、他律的である自身の意志でコントロールしうるだろうか。




  ねえ
  もうすぐ夜明けだよ
  こんな夜明けに君と見た夢を
  俺はまだ忘れられないまま




  
  スプーンに一杯だけでも
  あなたが優しさをくれた日は
  とても幸せになれる




   希求三寒四温

  君の声を聞いた日は
  この寒い部屋に
  温かな光差し込むのさ
  君は僕の天使だから




  努力は空回り
  どうすることもできず
  俺の心はover flow
  大声で叫んでも君には届かない
  俺のせいだね、すべて

  ねえ弱音吐くよ
  かっこつけてたけど
  ねえ苦しいよ
  俺を救えるのは
  もう君しかいない





笑ってよBaby
君の笑顔は
俺を喜びに導く

それでも
君が気づいていない
今のうち
俺は消えるよ
この心見せてしまう前に

これ以上
俺が側にいたら
君がきっと
だめになるから
淋しさが引き留める前に

笑ってよBaby
君の笑顔は
俺を喜びに導く




    鯨捕りに於ける宇宙的純愛性~1~

   もし、魂まで宇宙の塵に還元できるなら
   俺は、今すぐ、鯨捕りをやめるだろうね
   宇宙から君を見守ることが出来るなら
   俺の人生にも少しは意味を見いだせる

   遠くからでもいい
   君を見ていられるなら
   その笑顔が俺に向かうものでないとしても




someday & somewhere

腐ったようなこの世界を
俺はいつも
斜に眺めながら
偉そうな顔をして生きてきた
心を閉ざしてうそぶくのさ
love song
うまく歌えたよ
sexy voice
君を好きになるまでは

俺の心に命を吹き込み
去っていこうとしてる人
俺はどうすればいい
君のくれた命
生かすこともできず
ただ怯えるばかりさ

明るい光帯びた明日の夢も
そして希望も
君がくれたんだよ
素直に言える日がきっと来るね
君が教えてくれた言葉
I love you
言える日がきっと
someday & somewhere
笑いながら会えたら





幸せは いつも 手の中の砂のように
さらさらと指の間から落ちてく
握ってないから悪いんだよね
でも 握ってると壊れてしまう幸せもあるんだよ
不浄な手で触れているだけで
汚れてしまう幸せがあるように

幸せは ずっと 手の中の風船みたいで
ふわふわと俺のところから逃げてく
つかんでないから悪いんだよね
でも 飛ばさないと死んでしまう幸せもあるんだよ
不浄な手で触れているだけで
汚れてしまう幸せがあるように




 マイナス0度

 マイナス0度の嘘と
 摂氏36度の嘘
 あまりにも違い過ぎる
 確信と過失

 邪と聖
 汚と清
 そして死と生




 凍結的永久仏心性

 君のついた嘘を
 非難する俺の言葉は
 むなしく俺を刺す
 虚空でさえも触れることを許さない俺の真空の心
 その中では君の嘘は浄化される
 永遠に凍り続け決して実ることのない仏心として

 俺自身が嘘なのだ




 笛吹きごんざぶろうを思う

 笛吹きごんざぶろうにとって
 笛は罠か凶器か
 笛の音は自ら吹く鎮魂歌なのか
 笛はごんざを殺したのか
 ごんざは笛に死んだのか
 笛はごんざを生かしたのか
 それとも、笛は





 俺は誰も愛さない
 誰も俺を愛さない
 俺は誰も愛せない
 誰も俺を愛せない
 俺が誰を愛せば
 誰が俺を愛せば
 俺が誰を愛するのか
 誰が俺を愛するのか




 確かに、嘘は嫌い
 でも、本当はもっと嫌い
 言葉の矛盾は俺の心に堆積する闇
 光を当てるな
 つまり盲[めしい]に光は無用




 うそつきな詩人

 うそつきな詩人は
 墓穴を掘る
 墓穴さえ主人を選ぶことを知らず
 言葉を汚した己を葬るために
 決して入ることのできない墓穴を
 言葉を紡いで掘り続ける




 いつもポケットにナイフを

 どこで巡り会えるかわからない君のために
 俺はいつでもポケットにナイフを忍ばせる
 目は見開いているよ
 君の手は気まぐれだから
 邪な熱情と淫らな献身
 その君のすべてを俺は恋しいと思う
 だからこの胸を一思いにえぐり取って
 俺にはもういらないものだから




 歌歌いのように
 君に愛を語れたら
 俺がつく嘘の代わりに
 たった一言だけ歌えたら
 氷解が俺を溶かし流しても
 俺はきっと最期に笑うよ




 故我唯怖愛

 氷解を待つより
 氷中に永遠の不義者として生きる道を
 どうして、選んでしまうのだろう
 氷は冷たすぎる
 だけれども愛は熱すぎる
 故に俺はただ愛を怖れる




   聖マリアに

 この命を奪ってくれるのは
 誰なのだろう
 心を持たない男の
 心がかつてあった場所を
 熱情をナイフに代えて
 突き刺しえぐり取ってくれる女がいたら
 僕は眠りつく前に
 涙を流して
 きっと彼女を抱擁するに違いないのに






 「坊や、よくお聞きよ。よく飛ぶために必要なのは、立派な羽根じゃなくって、ほんの少しの勇気だけなんだよ。」








  逝きし子と 同行二人 チリチリン







   ドッピョの哲学(その1~ファンヒーター~)

 そうか。わかったぞ。
 この箱のなかに閉じ込められてたんだ。
 夏のいっぱい詰まった箱は口から南風を吐き出す。
 夏のいっぱい詰まった箱は近づき過ぎると熱い。
 夏のいっぱい詰まった箱は少し嫌な臭いがする。
 それでも、夏のいっぱい詰まった箱が僕は好きになった。
 だって、夏がいっぱい詰まってるんだもの。

 おいドッピョあまり近づくなよ。火傷するよ。
 そう言うあの人は、魔法使いなんだ。





      万有引力(ニュートン力学の東洋的考察)

 その一部始終をわれわれは万有引力と呼んでいます

 有は無より生まれた鬼っ子
 存在だけで親である無を否定する
 無は有を認めない
 無は有を飲み込もうとしている
 完成された調和を取り戻すために
 有は自分の存在が悲しくて
 無の中に自らを還元しようと
 自らの中に落ち込んでいく
 完成された調和に取り戻すために






 時が満ちれば成就するのです
 必要なものたち~全宇宙的な~が調和をすれば
 
 無意識はそのときを知っています
 大切なことは、無意識の声に耳を傾けることです

 時が満ちていなければ、決してうまくはいかないのです。

 あせらず、時を待つことです。
 あせって時を見逃すことのないように
 あせって時の満ちるのを妨げないように

 神の声とは、実は、己が無意識の啓示なのです
 無意識の顕現なのです

 何もしないのではなく、何かをしないということはむずかしい
 けれども、何をなすべきかの答えは、自らあらわされています
 無意識に聞くことです
 重ねて言います
 何もしないのではないのです

 すべてのことは調和のうえに成り立っています
 混沌を超越した全宇宙的な調和
 量子があらゆる不規則性を含んでいようと
 揺るぎのない調和
 すべての混沌と不調和は連関して調和しているのです

 無為自然とタオが云います
 諸行無常とブッダが云います

 同じことなのです
 無意識を識ることです
 無意識が識る自然の調和を観るのです

 花が咲き実が熟し葉が萌え茂りやがて枯れ落ちても木が木であるように
 下草が生え木が茂りやがて朽ち果てても山が山であるように
 自然は映り映りながらも調和に満ちています

 すべて宇宙がそのようなのです

 時を知るものは己を識る
 己を知るものは時を識る








 吾が裾につかまる君の可愛さよ
     祭の宵を歩きつつ思う







 祇園街 着物の君に 惚れ直し







 誰かに好きになってほしいなら、まず、自分が、彼を好きになることさ







 秋今宵集いし人のそれぞれに人生がある一献の酒






    秋夜想

 ワイパー越しの冷たい雨
 誘うフラッシュバック
 あなたと一緒に
 平凡に生きられたなら
 それだけでとても幸せだったはず
 二人別々のときを重ね
 生きてきた時間を悔やまないけど
 何を迷い
 何を躊躇い
 握ったその手を離したのか
 あの日のことが悔やまれる
 一人きりの夜に







 人は風邪をひくよりも簡単に恋に落ちる。






       断章(「星のかけら」より)

 祖父があんなことさえ言わなければ、納屋に近寄ることなんてなかった。
 「当分の間、納屋に近づいちゃいかん」
 ──なにがあるんだろう?
 母が食事を運んでいるのを見て、納屋の中に人がいるというのはわかった。
 ──誰がいるんだろう?
 僕はいつの間にか、納屋の前にいた。
 「こら。」
 という声に、ビクッと首をすくめた。
 振り返ると、母が、血相を変えて立っていた。
 「近づいちゃ駄目って言ったでしょう」
 わかってるさ、そんなこと。だけど、駄目って言われたら、やりたくなるもんじゃないか。見ちゃいけないって言われると、それまで気にしていなかったものまで見たくなってしまう。
 僕を叱りつけた母も、きっと、祖父から厳しく言われていたのだろう。
 そんな事情は知らなかったけど、口答えをせずに、「ごめんなさい」と言って、走ってその場を離れた。
 作戦変更!
 次の日、母が、納屋から出てくるのを植え込みの影で見張った。
 祖父の言いつけを守って、食事を運ぶ時以外は、母も納屋には近づかなかった。
 母が立ち去ると、戸のすき間から納屋の中をうかがった。
 中は真っ暗で、何も見えなかった。
 僕は、辺りを見回し、誰もいないのを確かめると、戸に手をかけた。
 ゆっくりとゆっくりと。
 運よく、音を立てずに戸は開いた。
 目の前には、古い和だんすが置かれていて、中の視界を遮っていた。
 記憶にあった納屋の中の光景と違って、暗く見えたのもそのせいだった。
 天井には、記憶の通り、天窓があった。
 外から中をうかがえないように、祖父が移動させたに違いなかった。
 僕は、小さなすき間から、中に入った。
 天窓から差し込んだ光は和だんすの裏側に落ちていた。
 光のある側が、気になった。隠しごとは、きっとそこにあるに違いない。
 恐怖はあったが、それを打ち消す材料もあった。
 母さんは、無事に出入りをしているじゃないか。きっと、お化けや幽霊じゃないんだ。
 床に手とひざをつけたまま四つんばいの姿勢で、僕は、ゆっくりと奥へ進んだ。
 少しの距離がとても遠かった。
 見つかれば叱られるという気持ちが、目の前よりも背後に恐怖を強く感じさせた。
 たんすの影から裏をのぞくと、天窓から差し込む光の中に、その人はいた。
 顔中をおおった黒いひげ。うす汚れた白いシャツ。読書をしていた。
 絵本やなにかで見たことはあったが、顔中にひげの生えた人を実際に見るのは初めてだった。
 しかも、知っている黒ひげの男は、欲張りの異人や、意地の悪い魔法使いばかり。
 僕は、後ずさりをした。
 「ギー」
 床が音を立てた。
 ──しまった。
 黒ひげは、静かに顔を上げて僕を見た。
 立ち上がって逃げようとしたが、体は言うことを聞かなかった。
 目をそらすこともできず、ただ彼を見つめた。
 心臓が、今にも口から飛び出しそうだった。
 けれども、それは、ほんの一瞬で、ひげの奥からのぞく彼の笑顔が、僕をすぐにほっとさせた。
 ──悪い人じゃないんだ。
 という直感が徐々に実感に変わっていった。
 「おじさん、何をしているの」
 恥ずかしさを隠すためだったのか、その場を取り繕おうとしたのか、とにかく、僕は勇気を出して声をかけた。
 「星のかけらを集めてるのさ」
 彼は、ぽつりと言った。
 やさしい声だった。
 「星のかけら?」
 「そう」と肯いて、彼はポケットから小さな白い紙袋を出し、中から取り出したものを、まず自分の口に運んだ。
 おいしそうな笑顔。
 笑顔に促されて、僕は、恐る恐る手を差し出した。
 赤、紫、緑、黄色、白。半透明の小さな球体から星のきらめきのようないぼいぼの生えた形。
 鼻に近づけると、少し甘い匂いがした。
 一粒を口に入れて舐めてみた。
 甘さが広がって、僕は思わず目を閉じ、幸せな気持ちに浸った。
 戦争ですべてが配給になり、甘いお菓子が消えてから、久しく忘れていた味だった。
 「おいしいか?」
 「うん。とっても。ありがとう。おじさん」
 「それはよかった。じゃあ。これは、全部あげよう」
 「え。いいの?。。。でも。。。」
 母や祖父に知られたら、ということが頭に浮かんで僕をためらわせた。
 彼は、僕の気持ちを悟ったように、
 「家の人には、言わなくてもいいよ。二人だけの秘密にしておこう」
 と言って、また、ひげの奥から笑顔をのぞかせた。
 僕も笑顔で同意した。
 「星のかけら、って、甘くておいしいね」
 「ん?」
 彼は、少し変な顔をしてから、プッと吹き出した。
 「そうか。でも、残念ながら、それは、星のかけらじゃないんだ。コンペイトウって言うんだ」
 「コンペイトウ?」
 ──何だか、変な名前だなあ。コンペイトウ。
 「星のかけらは、ほら、この中にある」
 彼は、そう言って、一冊のノートを示した。
 手渡されたノートを開いてみた。
 中には、きっと、珠玉の詩が詰まっていたことだろう。
 だが、子供だった僕には、難しすぎて読めない字ばかりが目についた。
 ピラピラと数ページをめくって、僕は、ノートを彼に返した。
 そして、もう一度、コンペイトウのお礼を言うと、納屋を後にした。






  名も知らぬ人に道聞く
  秋案山子逆光に立つ夕暮れの道





  母の面影浮かぶ
  父の面影浮かぶ
  妹の、祖父母の、友の、隣人の
  面影浮かぶ
  ふるさとは
  山川草木ではないのだ
  ふるさとは人だ
  そう思える幸せな、少しセンチメンタルな我が幼年時代





 旧三坂峠に太宰治ゆかりの『天下茶屋』を訪ねた。
 故人は、「富士には月見草がよく似合う」と言ったが、コスモスも似合うのではないかと思った。

 来る人は変われど富士は古の姿とどめん 天下茶屋かな





       告悔

 奈津美は、小鳥のように笑う。
 その笑顔は、魔法のように僕をとりこにした。
 魔法のわけは知らない。
 しかも、不思議なことに、魔法は、僕以外には、あまり効き目がなかったようだ。
 彼女は、クラスの中で、別に目立たない少女だった。
 概して、恋の魔法というのは、そうしたものかもしれない。
 魔法にかかった僕は、授業中も、休み時間も、放課後も、彼女への接近を試みた。
 誰にも悟られないように。
 ところが、僕は、至って、不器用。隠せないのだ。
 本人は、隠してるつもりだったし、誰にも実際口に出して言わなかったのだけど、あとで聞いた話では、クラスメイトのほとんどが、僕の奈津美に対する恋心を知っていたらしい。
 実に、恥ずかしい話なのだが、当の本人は、気づかれていることにまったく気づかなかった。
 奈津美にも知られていないこの恋心をどうやって、彼女に伝えるかで、日夜、心を悩ませていた。
 ある日の放課後、彼女は女友達と二人で、帰り支度をしていた僕に近づいてきて、友だちの方が僕に、
 「ナオッチが、話があるんだって」と言った。
 僕は驚いた。
 二人に促されて、教室の後ろの方にいくと、奈津美は、少し、躊躇っていたが、友だちに背中を押されながら、
 「ねえ、一緒に帰ろうよ」と小さな声で言った。
 僕は、面食らってしまって、頭の中が混乱した。
 口をついて出てきた言葉は、事もあろうに、
 「なんで」
 というものだった。
 「なんで、一緒に帰るねん、俺とお前、方向違うやん」
 ──あちゃ~~!!
 その時のことを思い出すとき、心の中で、こう叫ばずにはいられない。
 どうして、あんなことを言ってしまったんだろう。
 「ばか!」
 と言って、彼女は、立ち去り、友だちも、後を追いながら、振り返って、「ばか!」と叫んだ。
 二人の背中を見送りながら、僕は、事の重大さに、はじめて気づいて、うろたえた。
 彼女は、知っていたのかも知れない。そして、彼女の方から、僕を誘ってくれたのかも知れない。
 だけど、あとの祭り。後悔先に発たず。
 それから中学の卒業まで、僕は彼女とその友だちに無視され続け、高校は同じだったけれども、結局、一言も口をきくことなく卒業。それからは、一度も会っていない。





     ホタル

 俺たちは一人づつ手に一升瓶を一本持って
 京都の街を歩いた
 歩きながら、らっぱ酒
 お前の話をしながら
 でも、誰も、お前が死んだことは口にしなかったよ
 あのとき高瀬川で白川べりで
 出てきたホタルは
 やっぱりお前なのか
 今でも、ホタルを見るとふとお前を思い出してしまう
 多分、みんな、そうだよ





   So long Mrマッケンロー(或は、偉大なるTHに捧ぐ)

 時代のせいだと嘯[うそぶ]くやつらが
 あなたを笑う
 生まれた時代の中で、必死に生きようとしたあなたを
 あなたは、生きたいように生きたわけではないでしょ
 あなたは、翻弄された
 時の波に、みじめに、流され、揉まれ、打たれた
 でも、あなたは生きた
 定められたときの中で
 燃え尽きるまで生きた
 風のように、星のように





        あなたに、そして、自分に

 後悔してもいいじゃないか。
 人は、後悔するために生まれてきたわけじゃないけれども、
 後悔しないために生きてるわけでもない。
 泣いてもいいじゃないか。
 負けても。
 つまずいても。
 いいじゃないか。





          魔法について

  「誰もが、お前の奴隷になる、そんな魔法を教えてやろうか」
  ──誰もが、奴隷に??
  のぞき込む僕に、
  ──そう
  と、あの人は肯いた。
  「最初の一睨みが大事なんだ。最高に冷たい目で相手を睨め。」
  それが1秒。
  そして、にこっとほほ笑む。
  最高の笑顔。
  そうすれば、うまくいく。
  「世の中、そんなふうにできてるんだ」






  戦[いくさ]前 金杉橋の ビル影で 一人見あげる 午後四時の月
     




         (実験的短歌)

          走れ
          逃げ出せ
          あいつらが来る前に
          一番怖いのは
          慣れなんだ






    コノクニハ、イッタイドコニイッテシマウノダロウ





         希求

詩的にしか語れないことは、現実的でないと思う自分がかつていました。
今も、少なからず、その自分はいるのです。
論理的に語れないのは、もちろん、文章力のなさかもしれませんが、ただ、こういうふうにしか言葉にできないことをずっと考えてました。
法律学の論理的な文章を書きながらも、企画書の経験的な文章を書きながらも、常に、このことだけは、ずっと、こんなふうでした。
だから、ぼくは、やっぱり、こんなふうに書いてみました。

探さずに生きている人はいるのかしら、と。

ぼくは、いつも、何かを探してるようです。
それは、待ってると言ってもいいのかもしれない。

やはり、青い鳥は、あそこにいるのでしょうか。
ぼくは、もうずいぶん離れてしまったけど、あそこは、確かに住よかったと思うのです。
ぼくは待てなかったけれど。

待っていれば見つけられたのかしら。
欲しがる気持ちが強すぎると得られないものなのかもしれない。
そう思っても、ぼくは探さずにはいられなかった。
実は、そう思ったのはずっと後のことで、そう思う前に、飛び出していたのだけど。

日常生活の中で、衝動を押さえるすべは、あきらめでしょうか。
もしそうならば、ぼくは、あくまで人殺しの側に立つ人でいたいと思う。

そして、何かは、決して、悲しみではないと信じたがっているのです。
(それは、温かくって穏やかで清らかで強くやさしい。儚くって、素早くって、すこし切ない)

ぼくを知っているあなたは、あなたの知っているぼくがこんなふうなことを考えていることを驚きはしないでしょう。
でも、これは、宣言なのです。
書かなければ、折れてしまいそうです。
ぼくは、ほんとうは、失格の実存主義者、実存主義の失格者。
ただ、あなたにとってもぼくにとっても、ぼくが卑怯なのは、ぼくがこのようにしてしか、自分を語れないことです。

あなたがこの文章を見ることはけっしてということをぼくは知っているのだから。





          希求2(或は、過程)

ぼくらは、大海に溺れるもののようです。
舵もなく、櫂もなく、櫓もなく、帆もない船で、乾いた砂の海に翻弄されるもののようです。
コミュニケーションの複雑化は、極めて人間的な活動のはずだった言語活動を、限りなく非人間的なものにしてしまいました。

子どもの頃は、言葉を知れば、自分を表現できるのだと思っていました。
自分を表現できないのは、語彙と修辞的な知識が不足しているからだと。
でも、人とのコミュニケーションの困難さは、言葉の習熟に比例していきました。
ぼくはもうあの頃のようには、自分を表現しえない。

あなたがいた、あの頃、あの場所で、ぼくは、自分が何を語ったのか、自分が何者だったのかさえ、忘れてしまっています。
今ではもう、ぼく自身が、ぼくに、ぼくを語れないていたらく。
意味のない無数の言葉を紡いで編み上げられたぼくは、決してぼくではない。
古い言葉も新しい言葉も、すべては、砂のように乾いてしまっています。

でも、不思議なものですね。
こうしてひとりで言葉を紡いでいるときには、ぼくは、素直に、ハイマートを希求できる。
そして、日常の中で遠くに追いやってしまったあなたを指向しています。
あの頃は、言葉のもつ神秘的なダイナミズムを実感していた。
そんなことを今、思い出しています。
そうして、その言葉をぼくは、語るのではなくて、叫んでいた。

            エウレカ!!

そうだった。
ぼくは、叫んでいたよね。
言葉を絞り出した最初の人のように、ぼくは、きっと叫んでいた。

あなたはそれに気づいていたのですね、きっと。
っと思ったら、また、あなたが遠くなった。

      おさなごがしだいしだいにちえづきて
         ほとけにとおくなるぞかなしき 一休
 




         あのころの君は

 いつから君は、そんな嫌な大人みたいなことを言うようになったんだい。
 君のことが好きだったのに。
 今はもう、君と口をききたくないし、君を見たくもない。
 ずっと好きだったのに。
 君だけは違うと思ってたのに。

 彼は、とても悲しい顔をした。
 そう。彼は、僕で、僕は、彼。




         時食[ときは]み猫の伝言

 消してしまいたい思い出は、風通しのいい日陰においた方がいい。
 あなたが思い出すたびに、時食み猫は思い出を噛る。
 はじめは、鮮明だった思い出の中の人の横顔を、ある時ふと思い出せなくなった
ら、それは、時食み猫の仕業。
 次の瞬間には、また横顔は戻っているから、何事もなかったように思うのだけど。
 時食み猫は、小さな子猫。
 一度にたくさんは食べられないから。
 時食み猫は、色のシロップをおいしそうに舐める。
 思い出は色を失う。
 次は、音。次は、匂い。
 あなたが思い出すたびに、時食み猫は思い出を噛る。
 やがて、モノクロームになった思い出は、粉になって、風に乗って、時食み猫と一緒に飛んでいってしまう。
 そんな、時食み猫はいりませんか。
 風に乗せてお送りします。

    by ヒッパロスの風待ち




  ニューオリンズ

ニューオリンズを目指して
少年は碧の川を下る
手作りのいかだに乗って
やがて、川は大きな海に至り
蒼い海は、アメリカに、
そして、ミシシッピへと彼を運ぶだろう
ミシシッピの河口
ニューオリンズ
夢と未来と歌が彼を待つ都




        (無題)

       真夜中すぎ
       恐山の修験者は
       厳かに手印を結ぶ
       独り寝の俺は
       さみしく手淫する





    人買いから 買い戻したる 乙のが身を
         また売りにいく 秋の夕暮れ





    革命の前後

 人買いに自分を切り売りする男がいた。
 切り売りされた男の肉が肉屋の店先に並ぶ。
 安売りと書かれた赤い札、風に揺れる。

 ある日を境に男は変わった。

 男は切り売りした自分をせっせと買い戻しはじめる。
 今日は右脚。昨日は右眼。一昨日買ったは指三本。

 集められた男の切れ端を洋裁の得意なサト子が縫い合わせる。

 体は戻ってきたものの切り売りをした心がない。
 肉屋は、冷たく、
 「しらない」
 と言った。
 人買いは、革命の夜に、逆さに吊されて死んだ。

 「誰か知りませんか、僕の心。」
 「僕の心、知りませんか。」

 薄墨色の夕刻。開かずの踏切の前で、男はとても悲しくなった。

 彼の頬を涙が流れた。
 その涙こそ心の証。

 翌日、公園のベンチで男はサト子に結婚の申し込みをした。






 あなたを嫌いになりたくて
 あなたが嫌いということをしてみる。
 たばこ、深酒、赤い爪。
 でも、あなたを嫌いになれなくて
 熱いシャワーを浴びる夜明け前。






汗にじむ 暗やみの夜半 独り寝の
    三十路のわれの 手淫の音





 ゴンドラに 乗ってあなたと 船出する
     そんな夢を見た 印象─日の出





  さみしさに 燐寸を擦って 眺むれど
       いずこも寒し 冬の夕暮れ





 あらかじめ存在を否定された母の
 胎の温もりも知らずに
 死んでいった
 三億の児に
 懺悔する暗やみ

 祭のあとの静けさの中で
 俺は嘘ぶく
 
 生まれないほうが幸せなのだと






 アルバムの写真を燃やしその灰を風に飛ばした
 髪を切った夜


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